
ここのところ(半年くらい)勉強で忙しく、なかなか映画館に行く機会がなかったのですが、公開を楽しみにしていた『わたしは最悪。』、『リコリス・ピザ』を7月1日に立て続けに鑑賞して以来、映画の熱が再燃してきました。
『X エックス』という作品は、大島依提亜さんがポスター等担当されているということで気になっていました。私の鑑賞スタイルとして前情報をほとんど入れずに見に行くことが多く、本作も漠然と「自主映画を作る若者たちが巻き込まれるホラー」というくらいの認識がある程度。U-NEXTのポイントで何か見ようかと思っているところで、今日公開ということで鑑賞に至りました。結果、怖くて縮こまりながらの鑑賞となりましたが、非常に楽しい映画で大満足でした。
都内の某館、おそらく朝一の回だと思います。映画館のロビーはおそらく今日発売だと思われる他の作品のグッズを求める方がたくさんいますが、スクリーンはうってかわって静かです。公開日初日とはいえ金曜日のためか、空席も目立ちます。
例によって長い予告編の後、日本の配給「Happinet」、続いて製作の「A24」が簡潔にクレジットされ、本編が始まります。以下、物語の核心に触れるような(ネタバレを含む)導入部分のあらすじと結末に触れますのでご注意ください。場所はテキサスの農場(実際のロケ地はニュージーランドだそうです)。地面はところどころ血溜まりができており、掛けられた白布が真っ赤に染まっています。凄惨な殺人事件が起きたことは明らかです。牧場主の家のブラウン管から流れる映像が、事件から間もない生々しさを伝えています。何かを訴える男の映像。家内を調べる保安官は地下で驚くべきものを目にします。それが一体何なのか、鑑賞者には示されません。
—24時間前。
メイクルームでドラッグを嗜む女性(ミア・ゴス)。それまでの映像ではわかりにくかったのですが、彼女の髪型やメイクから、時代設定が古いことがわかります。後に1979年であることが示されます。メイクルームに男が入ってきて、彼女に出発の合図をします。再び1人になった彼女が鏡に向かって語りかけるセリフは強い野望に溢れており、痺れました。
—“You are a f*cking sex symbol.”
彼ら、つまり店の摘発により営業を余儀なくされたセックスワーカーとそのブローカーの男は、ポルノ映画産業に乗り出そうとしているようです。移動の車内では新ビジネスに対して夢物語ともいうべき素人会話が繰り広げられます。メイクルームで登場した2人の他に、2組のカップル(ポルノ女優のブロンド女性、同じく俳優のアフリカ系男性、監督志望の男子学生、それをたまたま手伝いにきたガールフレンド)が同乗しています。言うまでもなく、ワゴン車で旅をする若い男女の姿は同じテキサスが舞台の名作『悪魔のいけにえ』の主人公たちに重なります。ちなみに、昨日たまたま見た映画『タッカーとデイル』もまさしく同作にオマージュが捧げられ、同様に若い男女が事件に巻き込まれる(という状況をパロディ化した)作品で、非常に楽しく熱い作品でした。
メインのロケ地に向かう道中、とあるガソリンスタンドで映画はクランクインします。個人的にこの作品のお気に入りのシーンなのですが、ガソリンを入れるポルノ俳優を撮影する学生監督にポルノ女優が声をかけます。「給油口から男の顔にカメラを動かせば、男がペニスを挿入しているように見える」といった内容のアドバイスです。実践すると……確かに彼女の言う通りだということが、監督のカメラを通してわかります。フランス映画を参考にしてアート映画を撮ろうとする映画学生よりも、セックスにしか興味のないような言動をするポルノ女優の方が、映画に対する勘が鋭いという可笑しさがあります。このあたりはウディ・アレン監督の『ブロードウェイと銃弾』に出てくるギャングの用心棒と、どこか通じるところがあります。ただ残念なことに、このナイスなキャラクターの女優さん(途中で映画『ヘアスプレー』アンバー役のブリタニー・スノウだと気づきました)のこの設定は特に生かされることはありません……。
彼らがロケ地である牧場にたどり着くところからが悲劇の始まりです。新聞広告に掲載されていたはずの空き部屋の案内が、部屋の持ち主である老人の主張と食い違っており、銃を向けられるという不穏な導入から、弾の装填されていない銃、若者たちを見つめる老婆、池に潜むワニと、いたるところに張り巡らされた不吉な要素がスリルを加速させます。
この先は細かく触れませんが、この映画の最も重大なテーマを1つ挙げるとすれば、それは言うまでもなく「老い」です。ポルノ映画の内容、もっといえばポルノという直球な題材そのものが象徴するように、彼らが生きるのは「若さ」を謳歌し、それが価値を持つ世界。対して老いた人間は自らの性をコントロールすることすらままならないという現実に直面します。ちょうど『リコリス・ピザ』のために『ブギーナイツ』を見かえしたばかりですが、ポルノ俳優として一時代を築いた主人公のポルノ俳優も、ドラッグに溺れ、あっさりと後継に役を奪われそうになります。世代というのは絶え間なく移り変わり、栄華を極めた者も明日は約束されていません。性を売りにする彼らは尚更です。『悪魔のいけにえ』のマリリン・バーンズのようにどこかへ旅立って行くミア・ゴスですが、私が「おっ」と感じたのは、彼女が実は老婆役でもあるという事実です。単純に読み解けば彼女が勝利したかに見える結末も、「若さ」が「老い」に勝つという原則が適用されたにすぎず、彼女が進む先に待ち受ける確かな老い(=若さに凌駕される未来)には目を背けられません。
この映画は3部作としてシリーズ化するそうです。おそらく彼女が老婆でもあったことは自作にも引き継がれ、さらに深掘りされることと思います。エンドロール後に速報的なものが挿入されましたが、私にはパロディか何かにしか見えませんでした(本当にあんな感じなの⁈)。この作品のタイ・ウェスト監督の作品は、他にはまだ1本も見ていませんが、タランティーノのような監督と同様に、70年代のエクスプロイテーション映画への愛を溢れさせています。正直なところ、私はそれらの映画に全くというほど馴染みがありませんが、自らの映画を最後に“F*cking Horror Movie”(だったかな…)と吐き捨てるセンスに痺れました。あれも何かの引用かな?
最後にひとつだけ気になったポイント。冒頭で保安官が目撃したものというのがなんだったか、ということの答えですが、正直もっとすごいものを想像していました。それまでの惨状を目撃していて、わざわざあれに驚くでしょうか?